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松江家庭裁判所 昭和60年(少)514号 決定 1985年7月05日

少年 N・Y子(昭41.3.6生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

第1(1) 昭和60年4月14日午後1時頃ないし同3時5分頃から同年5月25日午後2時30分頃までの間、前後7回にわたり、別紙非行事実一覧表(以下、「一覧表」という。)記載のとおり、松江市○○町××シヨツピングデパート「○○」ほか4か所において、Aほか5名所有もしくは管理にかかる現金合計2万5,900円及びスカートなど物品合計14点(時価合計1万7,130円位)を窃取し

(2) 同年5月14日午前9時24分頃、松江市○○町×番地株式会社○○銀行松江支店において、行使の目的をもつてほしいままに、同支店備付けの普通預金払戻請求書用紙2枚にそれぞれ金額欄に「¥19,000」、「¥17,000」、日付欄に「60.5.14」、氏名欄に「B」、「C子」とボールペンで各記入し、その各記名の横に一覧表5で窃取した「○○」と刻した印章を冒捺し、もつてB及びC子作成名義の普通預金払戻請求書2通を各偽造し、同支店係員D子に対し、これらをあたかも真正に成立したもののように装い、一覧表5で窃取した普通預金通帳2通とともに提出行使して預金の払戻しを請求し、同人をしてその旨誤信させ、よつて即時同所において、同人から預金払戻し名下に現金合計3万6,000円の交付を受けてこれを騙取し

(3) 同月20日午前10時頃、前記○○銀行松江支店において、前同様に行使の目的をもつてほしいままに、同支店備付けの普通預金解約請求書用紙2枚にそれぞれ金額欄に「¥1,000」、日付欄に「60.5.20」、氏名欄に「B」、「C子」とボールペンで各記入し、その各記名の横に前記「○○」と刻した印章を冒捺し、もつてB及びC子作成名義の普通預金解約請求書2通を各偽造し、同支店係員E子に対し、これらをあたかも真正に成立したもののように装い、一覧表5で窃取した普通預金通帳2通とともに提出行使して預金の払戻しを請求し、同人をしてその旨誤信させ、よつて即時同所において、同人から預金払戻し名下に現金合計2,000円の交付を受けてこれを騙取し

(4) 同月27日午前10時54分頃、松江市○△町××番地株式会社○△銀行本店において、行使の目的をもつてほしいままに、同本店備付けの普通預金払戻請求書用紙の金額欄に「20,000」、日付欄に「60.5.27」、氏名欄に「F子」とボールペンで記入し、その記名横に一覧表7で窃取した「○△」と刻した印章を冒捺し、もつてF子作成名義の普通預金払戻請求書1通を偽造し、同本店係員G子に対し、これをあたかも真正に成立したもののように装い、一覧表7で窃取した普通預金通帳1通とともに提出行使して預金の払戻しを請求し、同人をしてその旨誤信させ、よつて即時同所において、同人から預金払戻し名下に現金2万円の交付を受けてこれを騙取し

(5) 同日午前11時55分頃、前記○△銀行本店において、前同様に行使の目的をもつてほしいままに、同本店備付けの普通預金払戻請求書用紙の金額欄に「38,000」、日付欄に「60.5.27」、氏名欄に「F子」とボールペンで記入し、その記名横に前記「○△」と刻した印章を冒捺し、もつてF子作成名義の普通預金払戻請求書1通を偽造し、前記G子に対し、これをあたかも真正に成立したもののように装い、一覧表7で窃取した普通預金通帳1通とともに提出行使して預金の払戻しを請求し、同人をしてその旨誤信させ、よつて即時同所において、同人から預金払戻し名下に現金3万8,000円の交付を受けてこれを騙取し

第2昭和59年12月5日当庁において松江保護観察所の保護観察に付されたものであるが、昭和60年4月30日松江市内の婦人相談所を退所する際、保護観察官及び同市内担当保護司から島根県益田市内に居住する両親の許へ帰住するよう強く指導されて、同日独り同保護司に松江駅で見送られながら国鉄により益田市内担当保護司の待機する益田駅に向かつたものの、途中所在不明となり、以後両親及び保護観察所に連絡することもなく松江市内に立ち返つたうえ、遊興に耽り怠惰な生活を続けていることから、保護者の正当な監督に服しない性癖があり、また正当な理由もないのに家庭に寄りつかないものであつて、このまま放置すればその性格または環境に照し、将来売春防止法違反等の風俗犯や窃盗罪などの罪を犯す虞れがあるものである。

(本件犯罪事実と虞犯事実との関係)

少年は、昭和60年5月28日松江保護観察所長から、犯罪者予防更生法42条1項の規定に基づき当庁に上記虞犯事実の通告がなされた後、同年6月13日○○地方検察庁検察官から上記犯罪事実が事件送致されたものである。

ところで、一般に虞犯事実と犯罪事実との間に同一性が認められるとき及び両事実間に同一性がなくとも犯罪が虞犯性から予測される犯罪の直接的現実化と認められるときは、いずれも虞犯の補充性により犯罪事実のみを認定するのが相当である。

しかし、本件では一件記録を精査すると、上記虞犯事実と犯罪事実は、時期的に判断して虞犯が犯罪に先行しまたは虞犯と犯罪が同時期に成立しているとみられる場合があるものの、上記虞犯事実から予測される罪質とは異なりかつ徒遊生活のなかでの遊びの延長とは相違している私文書偽造、同行使及び詐欺などの上記犯罪が敢行されているだけではなく、上記犯罪が虞犯性のすべてを現実化させたものとして犯罪に対する評価でもつて虞犯についての評価も包括できる場合ではないこと等にかんがみると、両事実間に同一性がないものはもちろんのこと虞犯事実は犯罪事実に吸収されるものとも認め難い。

したがつて、上記虞犯事実を別個独立に非行事実として認定した。

(適用法令)

第1  の(1)の各事実につき、刑法235条

同(2)ないし(5)の各事実につき同法159条1項、161条1項、246条1項

第2  の事実につき少年法3条1項3号イ、ロ

(処遇の理由)

1  本件に至る経過

少年は、昭和59年12月5日当庁において、当時松江市内で定職もなく徒遊し、暴走族等と不良交友を深めるなどしながら売春行為や窃盗等に及んでいたことから、虞犯、窃盗及び道路交通法違反(第一種原動機付自転車の無免許運転)保護事件により初回係属となり、保護観察決定を受けた。上記決定後少年は、益田市内の父母の許に帰住したものの、同市内の美容院で2日程稼働しただけで同月18日遊び友達を頼つて出奔し、松江市内において友人宅を泊り歩くなどしながら深夜飲酒したり不純異性交遊に及ぶうち、翌昭和60年4月22日一覧表1ないし4の各非行により○○警察署員に補導され、松江保護観察所の手配に基づき婦人相談所に入所した。

しかし、少年は、同月30日婦人相談所を退所したのち本件第2の虞犯事実のとおり再び行方不明となつたうえ虞犯行状に及び、さらに一覧表5ないし7及び第1の(2)ないし(5)の各犯罪を敢行するに至つたものである。

2  少年の問題性

少年は、知能(I、Q=76新田中BI)は限界級にあり、基礎学力も劣つており、知能の発達のバランスは大きく崩れている。しかも、家庭環境も兄弟が多く(少年は6人兄弟の次女)劣悪であつて、共働きの両親に放任気味に育てられたため、基本的な生活習慣が身に付いていない。

少年は、小学校時代から情緒不安定となり粗野で学校生活にも適応できず、昭和51年5月(小学校5年生)には商店から現金を窃取したことや家庭の監護指導力も不十分であつたことから、島根県立八雲学院(教護院)に入所させられて小学校を卒業した。そして、中学校時代には、喫煙、校内暴力及び無断外泊などの問題行動がみられ、昭和58年4月同県立○○高等職業訓練校理容科を修了後松江市内で理容師見習として住込み就職したものの、長続きしなかつた。その後少年は、転職を繰り返したのち放浪生活に及び、上記保護観察決定を受けた後も松江市及び益田市各地区担当の各保護司の努力にもかかわらず、一時アルバイトをすることはあつても怠惰な生活状況は改善されていない。むしろ少年は、これまで徒遊生活のなかで遊びの延長としての万引などの窃盗や遊興費目当ての売春行為等の非行に及んでいたものが、本件預金通帳の窃取、有印私文書偽造、同行使及び詐欺は、犯行動機が自分の住所を定めるための資金欲しさにあるなど目的指向性が現われ、またこれらの窃盗の被害者らがいずれも少年のアルバイト先であつたのであり、そして抵抗感なく私文書偽造、同行使及び詐欺にも及んでいること等に照らすと、犯行手口、態様も大胆かつ巧妙になつており、少年の非行性は悪質化の一途をたどつて来ている。

ところで、少年は、性格的に明るく活動性が高いものの、人格的に未熟で気分易変化傾向が認められるうえ、両親への依存欲求が強い反面、成育期における両親との意思の疎通が十分でなく両親の少年に対する対応の仕方にも問題があつたため、両親に対する不満感、不信感を抱いており、この親子関係の歪みから自己中心的で性格的な偏りも大きい。また、少年には、外罰的で攻撃性も認められ、甘えを満たすため不良交友に依存しようとする傾向が存する。加えて、昭和60年5月28日観護措置決定がなされた後、少年の不純異性交遊による妊娠約22週の事実が判明し、少年の意思及び希望並びに両親及び松江少年鑑別所の配慮により病院で中絶するに至つた点にもみられるように、女性としての同一性の確立もできていない。

3  結論

以上のとおり、少年のこれまでの行状、性格、資質及び非行傾向等に関する問題性は根深く、当庁家庭裁判所調査官○○○作成の少年調査票、調査意見書及び調査報告書5通各記載の少年の生活歴及び保護環境などを総合すると、このままでは少年の非行性がさらに進展する虞れがあり、この際少年を施設に収容して系統立てた矯正教育により今までの生活状況について内省させるとともに日常生活に根差した規範意識や社会性の涵養をはかり、新たな少年の生活設計を立てさせて行くことが必要であると思料される。

よつて、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 河野清孝)

非行事実一覧表<省略>

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